中抜きや未払いトラブル事例と対処法
人材紹介会社の担当者や経営者の方にとって頭を抱える問題の中に取引先企業との手数料トラブルがあります。
この記事では、「人材を紹介したのに企業が紹介料を払ってくれない」「紹介した求職者を不採用にした企業がどうやらこっそり求職者と連絡を取って採用しているらしい」など、よくあるトラブル事例を取り上げ、その対処法について紹介します。
トラブルを防ぐための対策も紹介していますので、本記事の内容を参考にしつつ自社の予防策も考えてみてください。
よくある手数料トラブルと対処法
よくある手数料トラブルとして4つのケースと対処法と防止策をそれぞれ詳しく紹介していきます。
対処が遅れると、企業との信用問題などさらに大きなトラブルに発展する可能性もあります。状況に応じて適切に判断をしていきましょう。
ケース1:求職者の中抜き
人材紹介業において度々起こるトラブルの1つが、求職者の中抜きです。
「中抜き」とは、人材紹介会社が企業に求職者を紹介したにもかかわらず、人材紹介会社を通さず企業が採用をしてしまうことを指します。人材紹介会社に仲介手数料を払わず採用をするため、「中抜き」と呼ばれます。
中抜きの方法はいくつかありますが、よくあるケースとして「意図的に不合格にした求職者に連絡を取って後から採用する」というものがあります。
例えば、選考中の求職者に企業が無断で連絡を取り「人材紹介会社に支払う手数料分を給与に反映するので弊社に来てほしい」「人材紹介会社には不合格として連絡をするが、その後必ず採用するので人材紹介会社には内緒にしていてほしい」と求職者に持ちかけるのです。
中抜きが横行してしまうと紹介料を回収することができなくなるため、成果報酬型の人材紹介会社にとっては損害が大きく頭を抱える問題です。
中抜きの対処法
中抜きを未然に防ぐためには、契約書に直接取引の禁止について記載をしておくことが有効です。なぜなら、中抜きが発覚しても実際に証明することが難しい場合には、紹介料を回収できないケースがあるからです。
契約書への記載内容の一例は以下の通りです。
・人材紹介会社に無断で求職者を直接接触して雇用契約を締結することを禁止する
・紹介した人材を不採用にした後、一定期間内に別ルートで企業側から接触をして採用した場合にも中抜きと判断する
・中抜きが発覚した際には違約金を請求する
なお、対象期間については具体的な数字を記載しておきましょう。
中抜きをするような企業に入社をしてしまうと、「口頭で聞いていた給与が反映されていなかった」「コンプライアンスを順守できないブラック企業だった」など、求職者がトラブルに合う可能性もあります。
人材紹介会社の利用が初めての企業と取引をする際には、中抜きの実態や違約金について知らないケースもあるため、口頭でも説明をしておくとより丁寧な印象を持ってもらえるでしょう。
ケース2:提案された求職者に問題があり手数料を払いたくない
人材紹介会社が企業と人材紹介契約を締結する際、契約書に記載する項目の1つに「返戻金制度」があります。
返戻金制度とは、採用した人材に問題があった場合に、企業側が人材紹介会社に対して返金を求めることができる制度のことです。
問題があるケースとしては下記のような例があります。
・人材紹介会社から即戦力になる人物だと推薦された求職者が実は、うつ病を抱えていた。本人や人材紹介会社から開示がなかったため気づかないまま採用したところ、入社後に本人から体調悪化の理由として申告がありそのまま早期退職となった
・入社前に聞いていた待遇面や職場環境などが違うという理由で早期退職してしまった
企業側としては、高い紹介料を払ってようやく採用できたのに、早期退職が続いて必要以上に経費がかかり、経営を圧迫されてはたまりません。企業向けの補償の1つとして返戻金制度が設けられてるのはそのためです。
返戻金制度で返金することにならないための対処法
返戻金制度においては、保証期間や手数料を設定しているケースがほとんどです。返戻金制度の一般的な補償期間は90日程度の会社が多く、返金手数料は入社1ヶ月未満の場合、手数料の80%〜100%が相場です。
人材紹介会社によって補償金額や対象期間は多少異なるため、契約書に記載したうえで企業担当者にもあらかじめ説明しておくと良いでしょう。
人材紹介会社経由で入社した人材のスキル不足や勤怠不良などが理由で、クレームになるケースも想定されます。その場合、返戻金制度以外の対処法として「フリーリプレースメント」を提案するのも有効です。
フリーリプレースメントとは、早期退職になった人材の代わりとなる新たな人材を無償で提供する制度のことです。
この制度を受け入れてもらうことができれば、人材紹介会社は手数料を返金する必要がなく、企業側は採用活動を終えられるので双方にとって合理的な対処法の1つだといえます。特に登録者が多い人材紹介会社に向いている対処法でしょう。
ケース3:求人企業の資金繰りが悪く手数料を払えない
紹介先の企業のキャッシュフローに問題があり、手数料を支払えないケースもあります。人材紹介サービスの多くは成功報酬型を取り入れているため、企業に請求をするまでキャッシュフローの悪化に気づけないことがあるのです。
請求のタイミングは入社日を起点にしていることが多く、無事に採用が決まり安心したのも束の間、実は企業の資金繰りが悪くなっていて手数料を払えない状態になっていたという場合もあります。
人材紹介会社の売上に直接的な影響が及ぶだけでなく、最悪の場合、紹介した人材へ給与が支払われないなどの周辺トラブルにもつながりかねません。資金繰り悪化で手数料が払えないケースに関しては、早急な対処が必要です。
対処法
対処法としては大きく分けて2つあります。
①支払う見込みがあれば猶予期間を設ける
企業側に支払う意志があり、支払いの見込みが確認できる場合には、猶予期間を設けて対応する場合があります。
しかし、猶予期間中に企業が倒産してしまうリスクもあるため、慎重な判断が必要です。状況に応じて損害賠償等の措置をとるほうが有効な場合もあるでしょう。
②損害賠償や弁護士への相談をする
人材紹介会社から企業担当者へ、幾度となく支払いのお願いや期限の交渉をしても支払いに応じてもらえない場合があります。その際は弁護士に相談の上、法的手段を使うことも効果的です。
ケース4:求職者の経歴詐称
求職者の経歴詐称も手数料トラブルになる要因として挙げられます。せっかく良い人材を企業に紹介し契約できても、入社後に経歴を虚偽申告していたことが発覚してしまった場合、人材紹介会社の信用喪失にもつながりかねません。
経歴詐称に該当するケースとしては次のような項目があります。
- 最終学歴
- 雇用形態(正社員、契約社員、派遣社員など)
- 在籍期間
- 転職回数
- 資格
転職回数が多かったり転籍をした経験があったりする求職者の中には、ごく稀に、悪意なく在籍期間を勘違いして申告してしまうことがあります。
しかし、企業からはキャリアアドバイザーのカウンセリングの甘さを指摘される可能性があるでしょう。意図的に経歴詐称をしていた場合には採用取り消しになることもあります。
仮に求職者が自分を良くみせようとして能力や経験を過剰評価して入社してしまうと、想定よりもパフォーマンスを発揮できず、早期退職になる可能性もあります。
対処法
経歴詐称についての対処法は2つあります。
①紹介先企業との和解
どこまでが求職者のミスで、どの情報が意図的な経歴詐称だったかについては判別が難しいものです。しかし、人材紹介会社が経歴詐称することを促していたり、明らかに虚偽を隠蔽していた場合は責任を問われる可能性が高いでしょう。
人材紹介会社が意図的に経歴詐欺を促していなかったとしても、企業と和解交渉するためには、契約書に返戻金規定を盛り込み、どのようなケースが人材紹介会社の責任となるのか明記する対応が必要です。
②法的手続きを利用する
和解に向けて交渉を進めても、双方の主張が大きく乖離している場合は民事調停や訴訟も視野に入れる必要があります。ただし法的手続きを取ることになると、取引企業との関係性が絶たれる可能性が高くなります。
どちらの対処法でも、早期に解決したい気持ちで勝手に判断をせず、上司や社内の法務担当者等に相談しながら解決策を探っていくべきです。
手数料トラブルを未然に防ぐ方法
手数料トラブルを未然に防ぐために人材紹介会社側でできることとしては、4点あります。トラブルの前後で自社でできることは何か、確認して対応を進めましょう。
契約書の作成と事前説明
まずは契約書を細やかに作成することが重要です。
人材紹介会社は企業と求職者に対して、原則として書面で明示しなければならない項目が決まっています(職業安定法32条の13)。手数料に関することや返金についても期間や金額を具体的に記載します。
返戻金制度の内容は人材紹介会社によって異なるため、あらかじめ自社の方針を定めておきます。契約書に記載するだけではなく、実際どのようなケースが契約違反になるのか具体例を口頭で説明しておくとトラブルを回避しやすくなるでしょう。
採用ターゲットや要件のすり合わせ強化
「思っていた人材と違った」「こんな経験値の人材が欲しいと言っていない」など、後からクレームにならないよう、採用背景や募集要項などヒアリングを丁寧に行うことも重要です。
募集している職種や仕事内容を聞くのは当たり前ですが、採用背景が欠員によるものか、それとも社内の配置転換なのか、採用したい年齢層や既存社員の特徴などを詳しく聞いておきます。労働条件以外の組織風土についての理解も深めましょう。
入社後のキャリアパスや、評価制度などもヒアリングできると、求職者へ伝えられる情報も多くなりミスマッチを防ぎやすくなるはずです。
※ヒアリングシートのダウンロードも可能です。ぜひ参考にしてください。
営業メンバーへの教育
トラブル防止のためには社内の営業メンバーへの教育も重要です。
いつどのようなトラブルが起きてもいいように、初期の対処法をマニュアルでまとめ、ロールプレイングを交えた実践的な社内教育をしておくと対応がスムーズになるでしょう。
人材紹介は成功報酬型のビジネスのため、あらかじめ手数料の回収フローや未払い時の対応、上司への報告のタイミングを決めておきます。
滅多に起こらないトラブルもありますが、時には毅然とした態度で企業と交渉を進めていく場面も必要です。社員のためにもきちんと対策を講じておきましょう。
求職者や求人者の情報チェック
求職者側の情報チェックには、求職者の対応をするキャリアアドバイザーのヒアリング力が鍵となります。
求職者が経歴詐称をしていないか、面談や求人紹介をする際にはしっかり確認をし、経歴詐称をした場合のリスクについて求職者にも伝えておくこともリスク回避手段の一つです。
一方で、紹介先企業に問題がある場合にもトラブルになることがあります。一度トラブルが起きてしまうと解決まで時間がかかるケースもあるため、営業担当者は闇雲に受注活動をするのではなく、企業の資金繰りや事業内容に怪しい点はないかも確認しておきましょう。
参考:一般財団法人 日本職業協会 紹介業社の善管注意義務について
http://shokugyo-kyokai.or.jp/shiryou/shokugyo/01-6.html
まとめ
今回は人材紹介会社の担当者や経営者向けに、人材紹介の手数料に関するトラブルや対処法についてケースごとの対処法をお伝えしました。
本記事のポイントを改めてまとめると以下の通りです。
・手数料トラブルを避けるには契約書が重要。手数料や返金制度について記載をする
・紹介企業の支払いに問題がある場合には損害賠償や弁護士への相談も検討する。支払える可能性がある場合には猶予期間を設けて対応する
・人材紹介会社の担当者に対しては様々なトラブルに対応できるような教育が必要
とはいえ、規模が小さい人材紹介会社やマンパワー不足の場合、十分な時間をかけた教育が難しいケースもあります。
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