固定残業代とは?制度の基本と計算方法を解説

固定残業代(みなし残業代)は多くの企業で導入されている給与体系の一つです。あらかじめ決められた残業時間の範囲で毎月定額の残業代が支払われます。
従業員としては、既定の残業時間以下で働けばお得になるようにも見えますが、既定の残業時間が常態化してしまうのではないかという恐れにもつながります。
本記事では、そもそも固定残業代とは何なのかというところから、会社側・従業員側から見た固定残業代のメリット・デメリット、残業代の計算方法までを詳しく解説します。
固定残業代の理解を深めることで、求職者の応募意欲醸成や求人精査にお役立てください。
固定残業代とは

まずは、固定残業代とはどんな仕組みなのかを解説します。仕組みが正しく理解できていない場合、入社後のギャップが生まれてしまう危険性があります。
以下内容を確認して理解を深めてください。
基本的な仕組み
固定残業代は一定時間分の時間外労働、休日労働及び深夜労働に対して定額で支払われる割り増し賃金のことです。
(厚生労働省リーフレット:https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000498453.pdf)
固定残業代制を採用する場合には、会社の募集要項や求人票に以下項目を明示する必要があります。
- 固定残業代を除いた基本給の額
- 固定残業代に関する労働時間数と金額等の計算方法
- 固定残業代を超える時間外労働、休日労働および深夜労働に対して割増賃金を追加で支払う旨
固定残業代が成り立つ法的背景と労働基準法の規定
固定残業代は、主に労働基準法に基づいています。労働基準法第37条で時間外労働、休日労働、深夜労働に対して、割増賃金の支払いが義務付けられており、この規定が基本となっているのです。
<割増率>
- 時間外労働:25%(月60時間まで)、50%(月60時間超)
- 法定休日労働:35%
- 深夜労働(22時~5時):25%
この法律に則り、一定時間分の割増賃金分をあらかじめ固定して支払う制度が固定残業代制度です。
固定残業代のメリットとデメリット

固定残業代制度は通常の残業代支給とは異なる制度のため、メリット・デメリットをよく理解しておく必要があります。
ここでは、求職者、企業それぞれの目線でのメリット・デメリットを解説します。
固定残業代のメリット
時間外労働を前提とする固定残業代制ですが、メリットが多くあります。正しく運用されていることが前提となりますが、その前提の上で従業員側には多くのメリットがあるのです。会社としても、煩雑な管理工数から解放されるというメリットがあります。
従業員側のメリット
収入の安定
残業しなくても固定残業代が支払われることが約束されているため、収入が安定します。ほとんど残業をしていなかったとしても全額もらえることから、残業する方向性ではなく残業せずに生産性を高める方法にシフトできます。
効率的な働き方
上記に続き、残業時間を減らすことが有益になる仕組みになっているため、業務の効率化を目指すことになるでしょう。結果として、収入を維持しながら自由な時間を確保できます。早く帰宅して自己学習にあてることも、家庭時間を充実させることもできるようになるでしょう。
長時間労働の補填
前提として、固定残業時間で決められた範囲の残業時間を超えた場合、超過分の残業代が支払われます。そのため「超過分は無償で働かせられるのでは」と恐れる必要はありません。
たとえ繁忙期で残業せざるを得ない日が続いたとしても、金銭的には安心して働くことができます。
企業側のメリット
企業から見ると、残業代自体の管理のしやすさが大きなメリットとなります。主なメリットとしては以下の3つがあるでしょう。
- コスト管理の簡易化
- 給与計算に掛かる工数の削減
- 業務改善
毎月の人件費が予想しやすくなり、コスト管理が容易になります。さらに、残業代の計算が容易となり、給与計算の手間が減ります。そして残業をしないことに関するメリットを従業員に提示できることから、業務効率化への推進力にもつながるでしょう。
固定残業代のデメリット
従業員側のデメリット
従業員として固定残業代を見ると、デメリットとしての可能性ももちろんあります。主なものとしては以下の2点です。
- 長時間労働の可能性
- 基本給の低さ
長時間労働の可能性については、その会社に入社する前に入念なリサーチをしておくことである程度回避できます。つまり、現実に働いている人がどれくらいの残業を常時しているのか、長くてどの時期にどれくらいしているのかを把握しておけば、長時間労働が常態化しているかをチェックできます。
また、固定残業代があるため、基本給が低く抑えられているケースがあります。これに関しては固定残業代と基本給それぞれの金額と労働時間の長さから算出してみて、確認しましょう。
求人の見栄えのために固定残業代制を実施している場合があるので注意が必要です。
企業側のデメリット
企業にとっても、導入時に気を付けておくべきこととして「人件費の上昇」と「法的リスク」があります。
人件費に関しては、残業していなくても賃金が発生するため、人件費が上昇する可能性があります。
また、適切な運用ができなければ、労働基準法違反となってしまうリスクがあります。もしトラブルが発生した場合、未払い残業代の請求や訴訟となる可能性も出てきます。
固定残業代の計算方法

固定残業代制が導入されている企業へ転職を検討する際、本当に損をしないのかどうか、金額の計算方法を知っておくと安心です。
ここでは計算方法を紹介します。
基本給との関係
固定残業代は基本給とは別で定める必要があります。また、固定残業代の時間数や計算方法を明示し、超過の際の追加支払いを明記します。
その他手当等がある場合には、固定残業代とその他手当は分けて記載します。
(例)
- 基本給:250,000円
- 固定残業代:40,000円(20時間分の残業代)
- その他の手当:交通費支給
残業時間が固定残業代に含まれる時間数を超えた場合、超過分の残業代を支給する。
超過残業代は、法定の割増率に基づき1時間当たりの賃金を基準として計算する。
実際の残業時間と異なる際の計算方法
所定労働時間160時間、実際の就業時間170時間の場合
残業時間は170時間-160時間で10時間となります。
固定残業代の範囲は今回20時間以内の設計で考えると、固定残業代が支払われます。
先ほどの例の場合、基本給250,000円+固定残業代40,000円+交通費が支払われます。
所定労働時間160時間、実際の就業時間185時間の場合
残業時間は185時間-160時間で25時間となります。
今回のケースでは、固定残業代を20時間以内とすると、その範囲を超えて残業が発生したため、5時間分の超過残業代が支給されます。
超過分の計算方法は規定によりますが、基本給をベースに算出されるケースが多いことには注意が必要です。
例えば、
基本給250,000円/所定労働時間160時間×法定割増率1.25倍=1953.125円
となります。
超過分の計算方法についての確認も忘れずに行ってください。
また、上記ケースでは固定残業代の時給換算40,000円/20時間=2,000円よりも低くなっています。固定残業代は法定割増率よりも高く設定されるため、超過分の時給換算が低くなる場合もありますのでご注意ください。
求職者へ説明する際のポイント

人材紹介会社の担当者は、求職者へ仕事の紹介や制度の説明をする際には以下のポイントを押さえて説明することが重要です。これにより求職者が正しく制度を理解した上で応募を検討できるようになります。
固定残業代の概要
応募者は固定残業代制について知らない方も多いです。制度自体の説明により理解度が増し、その後の説明がスムーズになります。
契約内容
求人の契約内容について説明してください。金額、基準時間や超過、不足の際の計算方法などもあわせて認識をそろえるために詳しく説明します。
メリット、デメリット
応募者にとって何がメリットで何がデメリットなのかを伝えます。制度の説明と求人内容の説明だけでは就業後のイメージができない応募者もいます。
その方にとってのメリット、デメリットになりえることを伝えてください。
給与計算例
具体的な給与計算の例を伝えると、勘違いや認識違いを防ぎやすいです。
特に超過残業のケースなどは、数字を用いた説明で応募者の理解を促すことができます。
<想定質問>
・固定残業制の残業時間を超えた場合、どうなりますか?
・実際の業務時間が固定残業時間より少ない場合、どうなりますか?
・固定残業代のメリットは何ですか?
・固定残業代のデメリットは何ですか?
また、不安を感じていそうな場合には、早めに解消できるように働きかけておくと関係性の維持に役立ちます。
残業が多くなるのではないか?
残業時間の実態を把握し、超過残業が発生する可能性などを説明してください。実績を知ることによる不安の解消を目指します。
固定残業制によって損をするのではないか?
収入の安定や効率化による実質給与のアップなど、デメリットのみでなくメリットも再確認をします。
不安の解消まで対応ができれば、応募確率が高まるとともに信頼感も獲得できます。説明のみで終わらず、応募者の感情も意識してみてください。
まとめ
固定残業代が向いているケースは、企業、求職者ともに効率的な働き方を望んでいる場合などが挙げられます。
働く方は少ない労働時間で収入の安定を図ることができ、企業も管理工数の削減などのメリットを享受することができます。
一方、過重労働の発生、超過残業代の不支給などの課題もある制度です。
法改正や労働環境の改善が期待されますが、労働時間の適正な管理や従業員への十分な説明などの個人の取り組みによっても改善は可能です。
応募者が固定残業代制を効果的に活用できるようにするためには、転職の前段階から制度の説明や質問への回答を丁寧に行う必要があります。
応募者の不安を解消し、意欲を高められるよう働きかけてみてください。