人材紹介会社のための返戻金制度完全ガイド|制度設計から実践的な運用まで

人材紹介業において、返戻金制度の設計は避けて通れません。本記事では、返戻金制度とは何かという基礎的知識から設定方法まで、網羅的にご紹介します。

返戻金制度とは?人材紹介会社が知っておくべき基本情報

返戻金制度は、紹介した人が早期に離職してしまった場合に採用企業へに紹介手数料を一定程度返す制度です。ここでは、返戻金制度の基本的な考え方や、法律との関係、そして会社の運営にどう影響するかを説明します。

返戻金制度の法的根拠と義務

返戻金制度は、2018年1月の職業安定法施行規則改正で設定を義務付けられたものです。人材紹介会社は返戻金制度の有無や内容を明示することが義務付けられています。これまでは業界の慣行として行われていたことでしたが、この時点からすべての人材紹介会社が返戻金を定めることになりました。この返戻金制度については、義務として事務所の見えるところに掲示しておくこととなっておりましたが、2024年現在はインターネット上での掲載でも可能となっています。

なお、2024年度から、医療・介護・保育分野の人材紹介を行っている人に対しては「就職後6か月以内の返戻金制度」について定めること、また求職者への説明責任についてが改正されています。

説明責任に関して、具体的には、「求人者から紹介手数料及び返戻金の設定方法について説明を求められた場合、紹介手数料及び返戻金に関する統計データ等を用い、自社のサービス内容や紹介手数料及び返戻金を設定した理由を説明することで求人者の理解を得ていること。」とされています。

参照:厚生労働省|医療・介護・保育分野における 職業紹介事業について

返戻金制度を設定しないとどうなるのか

返戻金制度の設定は、2024年現在で義務とはなっていません。そのため、あえて設定しないという選択肢ももちろんあります。

しかし返戻金規定がなければ、採用企業にとってはその会社から候補者の紹介を受けて内定を出すリスクを考えなくてはなりません。契約にあたっては、返金規定がない代わりにその企業側としてのリスクに見合うものを提供する必要が出てくる可能性もあります。

適切な返戻金の設定はどう決めるべきか

返戻金制度は売上に直結する制度です。例えば、紹介手数料が100万円の案件で、1ヶ月以内の退職が出てしまったとき80%返金すると設定した場合、最大80万円の返金リスクが生じます。一方で、適切な返戻金の金額設定をして採用企業に示さなければ、求人開拓が失敗に終わる可能性もあります。

返戻金制度は、返金期間と返金率をバランスよく設計する必要があります。企業の納得感と自社のリスク管理のバランスを見ることにつながります。

返戻期間と返金率の考え方

基本的な考え方として、離職のタイミングが早ければ早いほど率を高く設定します。そのため、例えば1か月以内に退職した場合、3か月以内に退職した場合、6か月以内に退職した場合と段階を踏んで率を設定していくということになります。

求職者層の特性や業界の特徴なども踏まえつつ、その業界基準を見て設定していくのが良いでしょう。返戻金の有無や詳細については、厚生労働省の人材サービス総合サイトにすべての事業者の内容が掲載されているので、そこで事前に傾向を調べることができます。

参考:厚生労働省|人材サービス総合サイト

返戻金の契約文面例

返戻金制度を明記する際は、たとえば以下のような文を作成すると良いでしょう。

「当社が紹介した採用決定者が、入社後90日以内に自己都合により退職した場合、受領した紹介手数料の一部について、以下の基準に従い返還いたします。

  1. 入社後30日以内の退職:紹介手数料の80%
  2. 入社後31日以上60日以内の退職:紹介手数料の50%
  3. 入社後61日以上90日以内の退職:紹介手数料の30% 」

この文例は一例ですが、このように段階を踏みつつバランスをとった金額設計を記載していきましょう。

実際は様々なケースを想定して制度を設計する必要があるので、上記のように返戻金の計算方法だけ記すのではなく、支払い期限、適用除外条件などを具体的に記載します。また、代替措置がある場合はその内容も含めておくとよいでしょう。

返戻金ができるだけ発生しないようにするために

早期退職は内定後のフォローで防げる場合もあれば防げないこともあります。退職の理由は人によってさまざまで、本人の能力不足で解雇されるケース、職場環境とのミスマッチが就職後に発覚するケース、健康上の問題を隠していてのちに発覚するケース、あるいは就職後に健康上の問題が引き起こされたケースなどもあります。

返戻金制度が適用されるかどうかは、実際の退職理由と退職のきっかけなどを本人にも確認しつつ、企業側と落としどころを探ることになるでしょう。

返戻金が発生した場合のよくあるトラブルと解決策

返戻金が発生するタイミングは、なにかしらの不慮の事項やトラブルが発生しているケースがあります。ここでは返戻金の制度に関連したトラブルとその解決策について説明します。

企業サイドと折り合いがつかない

早期退職は、紹介手数料を払って採用コストもかけていた企業にとって、できるだけ避けたい事象です。可能な範囲で払った手数料を取り戻して補填し、新しい人材の確保に急ごうと考えるのも当然でしょう。

一方で人材紹介会社としては、親身になって転職を支えた人が退職に至り紹介手数料も大部分返さなくてはならないとなると、売り上げ目標に到達できないリスクがある上にそれまでにかけたコストが無為になってしまいます。

退職に至った経緯が退職者と企業側とで食い違う場合や、規定上のグレーゾーンに食い込む場合などは、企業側と慎重な話し合いが必要になります。今後も良好な関係を築きつつ、今回の返戻金で一方的な不利益を被らないためには、まず信頼関係を維持する姿勢を見せて真摯に向き合い聞き取りを行うことが必要です。

場合によっては返戻金の代替として、代わりの求職者を無償で紹介するなどの提案も有効かもしれません。

返戻金発生時の社内プロセスが決まっていない

これまで順調に事業が行っていて、返戻金が発生したことがなかったという会社の場合、返戻金発生時の社内プロセスが決まっていなくてバタついてしまうということもあるかもしれません。

返戻金制度自体だけでなく、発生した際の報告ラインや判断基準などを事前に整備することで、迅速かつ適切な対応が可能になります。

具体的には、返戻金請求の受付から支払いまでの流れを細分化したうえで担当とアクションを明確化します。また、なぜ早期離職に至ったのかを詳しく分析して、同様の事象を今後起こさないためのアイディアや具体的対策方法を出していく必要があります。コントロールできる範囲で対策を立てていくことで、返戻金のリスクを減らしつつスムーズな求職者支援をしていくことができるでしょう。

また、返戻金対応についてはマニュアルを作成して、社内で周知徹底していくのも重要です。

「フリーリプレイスメント」という代替案

フリーリプレイスメントとは、人材紹介会社が紹介した人が一定の期間内に退職した場合、別の候補者を無償で紹介することを言います。

人材紹介会社にしてみれば一回売り上げた紹介手数料を返金する必要がありません。一方で採用企業にしてみると、採用にかかったコストをさらに大幅に増やすことなく、新しい人材を手に入れることができます。両社にとってメリットがある手法と言えます。

この手法は、集客数に自信があり、また適切な候補者をすぐに提供できる体制がある場合に非常に有効です。ただし、それほど集客数が多くなく、該当の企業に合う候補者をすぐに紹介できない場合はデメリットとなる場合も考えられます。

フリーリプレイスメントの導入を考える場合は、自社との相性を考えて制度を設計していくと良いでしょう。